院内餓鬼道


 

 看護婦に姿を変えていたのは、ダークムーンのドロイドだった。セーラーマーズはおそらく風邪でふらつきながらも、同じような状況に遭遇し、囚われてしまったのだろう。
「あいにく、今の私は怒ってるのよ!」
 仲間を酷い目に合わせた敵が目の前にいる。ヴィーナスはワナワナと怒りに身を震わせ、渾身の力をその指先に混める。
「いくわよ!」
 速攻。
「クレッセントビーム!!」
 病室に輝く金色の輝き。指先から伸びる光のビームがパルコマンの身体を貫いた。大した活躍も見せず、その場に倒れるパルコマン。
 


「馬鹿な……セーラー戦士の力が、これほどとは……おぼえてらっしゃいっ!」
 あまりにも一瞬の出来事にエスメロードはうろたえ、捨て台詞を残して姿を消した。
「なに……呆気ないわね……」
 取り残される形となったヴィーナスだったが、慌ててマーズの元へと駆け寄った。
「マーズしっかりして!」
 包帯はまるで繭のようになっており、内側はドロリとした粘液で満たされていた。



「がぁぁああっ!!」
 大きく吼えたかと思うと、背負ったヴィーナスを後ろから抱きしめるように掴んだ。
「――え?」
 咄嗟のことに呆気にとられるヴィーナス。そんなヴィーナスを捕らえるマーズの姿は急速に変化していった。
 ビリリリィとセーラースーツが裂け、綺麗な指先が醜く膨れ、人間としてはあり得ない長さまで伸びる。そして腹部は妊娠したかのように大きく膨れ上がったのだ。
「ま、マーズ?」
 未だ仲間の変化に思考が追いつかないヴィーナスは、抗うことすらせずに捕まるままにマーズに問いかけた。
「ギギギギイァ!!!」
 返ってきたのは獣のような咆哮。
 


「ひぃっ!!」
 ヴィーナスはその姿を見た。およそ人間からかけ離れてしまった姿。先程まで苦しげに力なく呻いていた姿はまるで無く、邪悪な力強さを見せ付ける怪物の姿がそこにあった。
「ど、どうしちゃったの!? マーズ! マーズッ!!」
 やはりその問いには答えず、ヴィーナスはマーズに捕まれたまま床へと押し倒された。
「い、いや……冗談、よね……」
 乾いた笑顔でマーズに問いかけるが、冗談では決して無い。
「ハァァァァ……」
 大きく息を吐き出し、ヴィーナスを見下ろす。
「いや、何をするの!?」
 ビリィ! とヴィーナスのセーラースーツをその長い指で破り、恐るべき膂力で押さえつけ、怯えるヴィーナスの頬を触手のような舌で舐める。