哀しき犬


 

「そう、犬の散歩。つまりね……あなた、ここでしなさいな」
「なに、を――」
 と言った瞬間に、ヴィーナスに襲い掛かる強烈な尿意。
「くっ……な、何で……」
 股間をキュッと閉じ、自然と内股になって小刻みに身体が震えだす。
「このドッグバーの鎖は相手の身体を支配するのよ。つまり、生理現象でさえ思うがままってわけよ」
 告げられた言葉は酷く残酷なものだった。憎むべき相手の目の前で、野外で、犬のように排泄をしろと言っているのだ。
「そんな馬鹿な事……ひっ」
 内股にしていた脚が、己の意思に反して開かれていく。オスの犬がするように、ヴィーナスは片足を上げていた。
「い、いやぁー!! いやいやいやっ!!」
 脚を開いたことにより、我慢していた尿意がさらに激しくヴィーナスの下腹部に襲い掛かる。絶対にするまいと思えば思うほど、耐え難い激痛となってヴィーナスを襲った。
「我慢は良くないわ……膀胱炎になっちゃうわ」
 上品そうに振舞ってこそいるが、なんと下品な女性だろうか。しかし、そう思うほどヴィーナスに余裕はなかった。
「み、見ないで! やだ! いやぁ!!」
 エスメロードの歪んだ微笑を前にして、泣き叫ぶヴィーナスは犬のように尿を噴出した。




「な、なに……なんなの?」
 その答えは、目の前に置かれた皿が全てを物語っていた。今までの餌も酷いが、今餌皿に入っている白い液体のようなものは極めつけに酷い。生臭い悪臭で吐き気さえ催す。自らの排泄、汗、脂の匂いになれていたせいか、悪い意味で新鮮な匂いだった。
「さあ、お食べ。これはね、犬人間の精子よ。精子、わかるかしら?」
 はっきりと言われてようやく事態が飲み込める。次の瞬間にはヴィーナスは取り乱した。
「いや! いやよ! こんなの絶対いや!」
 だが、首輪と鎖には結局のところ逆らえないのである。
(酷い匂い……いやぁぁぁ)
 餌皿いっぱいに盛られた精子に、己の身体は四つん這いになって顔を近付け、舌を伸ばしている。
「ひっ、おぉぇ……」
 胃液が込み上げ、それは口内から噴出して精子に降り注ぐ。それをヴィーナスは舌を使ってゆっくりと、舐めるように舌で救い上げ、口内に含み、飲み込んでいく。