それはワイン色の妖しき液体


 

「ちょっと、待っ――」
 抗議の言葉はおぞましい液体の挿入によって遮られた。
(いき、なり!?)
 形を保ったままの液体――ジャーマネンの腕が前触れもなくヴィーナスの口へと差し込まれたのだ。
「んんんんんっ!!?」
 顎が外れそうなほどにこじ開けられ、必死に閉じようと試みるも、ガッチリと骨が固定されたかのように顎が動かない。
「ん゛ぅ」
 液体が脈打ち、喉をこじ開け、食道を蹂躙する。
「アアアアアァ!! アナタノ身体ノ中ハ最高ォ」
 それは尋常ではない性行為だった。『人間“の”生殖器』を使うのではない。『人間“を”生殖器』にしているのだ。
「ごほぉ……ッ」
 口へと差し込まれた液体の腕はヴィーナスの口内、食道を楽しむかのように一気に流し込むようなことはせずに、時間をかけて犯すように流し込まれた。
 あまりの苦しさに涙腺が緩み、涙が頬を伝う。息は鼻から辛うじてできるが、圧倒的な苦しさが呼吸を阻害していた。
「イイ! サイコウ!」
 まるで腕がジャーマネンの生殖器であるかのように、おそらくはその身体全体で快楽を味わっているに違いなかった。




 無残にも流れ始めた身体は、脚だけではない。純白のグローブに包まれていた両手。その指先がへなりと折れ曲がっていた。曲げているわけではない。自然に、そこから先が無くなってしまったかのように力なく折れ曲がっていたのだ。痛みなどない。だが、両脚の状況から考えるに、すでに溶けてしまったのだろう。 「うっあぅぁぁぁああああああああ!!」
 静かにゆっくりと流し込まれていた液体。ジャーマネンそのものであるその液体の真の恐ろしさがついに現れ始めた。
(もぉ、許してぇ……ッ だれ、か、お願い、助けて……)
 心の中の懇願は、苦しさからではない絶望からの涙によって表現される。だが、その言葉を感じ取ったのか、 ウットリとしながら、ジャーマネンはヴィーナスの耳元で告げた。
「アナタノ身体、少シズツ私ト一緒ニナッテルワァ」
(い、いやいやいやぁ!! こんな身体になって、永遠に生かされ続けるなんてイヤァァァァ!!!)