ヒトガタ


 

「これで後は行方不明になった人達を探すだけね」
「待って……」
 もはや仕事の半分以上は片付いたとばかりに先を促すヴィーナスとは対照的に、マーズは未だ緊張感を緩めてはいなかった。
「未だ、妖気が消えてない……」
 セーラー戦士の力を受ければ、大抵の妖魔は滅んでしまう。当然妖気も消えてしまうのだが、弱まるどころか先程と全く変わらぬ程にマーズは感じていた。
 無残な人形を指出してヴィーナスは問う。
「それじゃ、この人形がまだ生きてるってこと?」
「違うわ。その人形からはもう何も感じない」
 ふと、マーズは違和感を覚えた。バラバラになった人形の残骸に、何か足りないものがあるように感じる。
 部屋の中を探しながらヴィーナスは呟いた。
「本体は別ってこと? でもさっき、この人形からって……」
 ゆらりと動く妖気の塊。そのかすかな動きをマーズは見逃さなかった。
「気を付けてヴィーナス!」
「あ――」
 それは薄暗さに紛れた細い糸だった。一瞬だけ視界に入る糸の煌めき。その時には既に遅かった。
「くっ……」
 身体に巻き付いた糸は皮膚へと食い込み、強靭な力でヴィーナスの身体を締め付ける。
「ヴィーナス! 待ってて、今助け――」
 自らの必殺技。灼熱の炎で糸を焼き切ろうとマーズが構えた瞬間、マーズの背後に散らばっていた先ほどの人形の残骸が蠢き、両手がふわりと浮き上がってマーズの両腕を鷲掴みにした。
「うっ!」
 人形の両手は、それを支える身体が無いにも関わらず、マーズの身体を止める程の膂力を持っていた。
 そして、身動きの取れないその二人の間に、ゆっくりと天井から現れる小さな影。
「あはっ、あははははっ!」




「こいつを使うんだよ。僕は生き物じゃないからね、妊娠することなんて決して無いから安心していいよ」
 ゴソゴソと、自分の身の丈程もある巨大なペニスを手品のように取り出した人形は、それを自らの股間へと取り付けたのだ。
「いや……やめて!」
「お姉さんの身体を内側から人形に変えてくれるエキスをね、まるで精液みたいに出す事ができるんだよ。ちょっと形はアレだけど、お姉さんならきっと気に入ってくれるんじゃないかなあ」
「ち、近付かないで……ッ」
 泣き叫ぶヴィーナスに、人形は容赦なく近付き、そして、股間を覆うレオタードの生地をずらした。
「ひっ」
 体温のない人形の冷たい感触が女性にとっての敏感な部分へと触れる。
 抑えこまれているマーズが懸命に叫ぶ。
「ヴィーナス! くっ……離しなさい! このっ」
 だが、どれだけ叫ぼうともガッチリと掴んだ腕はビクともしなかった。
「言っておくけど、僕にとっては全然気持ちよく無いんだからね。むしろお姉さんが気持よすぎて自分から求めちゃうと思うんだよ。だって――」
 人形はケタケタと笑いながら続けた。
「今までみ〜んなそうだったからさぁ!」
「ひっ」
 その笑いはヴィーナスをさらに怯えさせた。
「やめてっ! やめてぇ!!」
 だが、その切なる願いも虚しく人形はその巨大なペニス型のディルドーを、レオタードをずらして顕となった秘所の割れ目へと突き刺した。