生ける屍


 

「操られているようには見えないわ……もう、これは、元には戻らない……」
 マーズは冷徹に判断を下す。
「でも、セーラームーンなら! きっとヒーリングしてくれるわっ」
 こんな状況で意見が食い違う。
「私達がやられたら、意味がないじゃない!」
 路地裏に逃げ込んだ二人は、前後からゾンビに迫られるまま対処に迷っていた。二人はそれぞれお互いの背中を預ける。
「でも……ッ」
 ヴィーナスの迷い。それは戦士としては致命的なものだった。これまでは純粋な妖魔を相手にしたものだったがゆえに強気にもなれたが、こうも元の人間の状態を残されていては決意にも迷いが生じる。
 必殺技を打てないままに、体術で何度も凌ぐものの、それにも当然限界があった。
「やるしか、ないの……?」
 マーズの炎、ヴィーナスのビームならば、確実に相手を行動不能に出来る。
「ヴィーナス、決断して……私は、やるわよ!」


 そうマーズが宣言した時、ふと上方から違和感を覚える。不気味な気配、それが頭上から発せられていた。
「上?」
 マーズが瞬時に上を見る。そこにはビル壁に張り付く異形の姿があった。
「ヴィーナス! 気を付けて!」
 獲物を見つけた狩人のような表情で二人を見下ろすのは、下半身が植物のような姿をした女性型の妖魔だった。



「あっ、ぎぃぁっ!!」
 肉にズブリと妖魔の指先が埋まり、種がその内部に埋め込まれる。
「ガァァァッ!!」
 激痛といっても決して過小な表現ではなかった。そして、妖魔が指先を引き抜いた後も種は自らマーズの体内に潜り込んでいく。
「ひっ、い、いやぁ!! 入ってくるっ!! 入ってくるぅ!!」
 マーズを拘束していた妖魔が、ゴミでも捨てるかのようにマーズをその場に放り捨てた。
「う、うぅ……」
 取り出そうにも、既に身体の奥深くへと潜り込んだそれは手で掴むことは不可能だった。
「どう、いうこと……ッ」
 その場にうずくまり、腹部を手でさすりながら痛みに耐える。その瞬間にも、種が潜り込んでいく感触がマーズの恐怖心を最大限に煽る。
「フシュゥゥゥ」
 妖魔はしばらくマーズを見下ろしていたが、やがて興味を失ったかのようにビル壁に飛び移ると、姿を消した。あとに残されたのは二人の戦士と大量のゾンビ。
 その二人も、今やその運命は風前の灯だった。マーズは戦闘力を失ってうずくまり、ヴィーナスはゾンビに拘束されつつある。
「くっ……ぅぅ」
 先程の植物妖魔の目的。それはすぐにマーズの身体の変化で、明らかとなった。
「う、うああぁぁぁぁっ!!」


 体内の種が、マーズのエナジーを吸って発芽する。根が恐るべきスピードでマーズの体内を駆け巡り始めたのだ。
「い、やぁぁぁぁ!!」
 臍から根が現れたかと思うと、一気に噴出するようにウネウネとその身をくねらせながらマーズの身体を這いずり回る。
「マーズ! いやぁ!!」