誕生


 

「きゃぁぁあああ!!」
 マーキュリーが振り返ったその先に、おぞましい肉の蔦に絡まれたヴィーナスの姿があった。
「ヴィーナス!?」
 下水の川から現れたおぞましい妖魔の塊。
「い、いやぁ!!」
 既にヴィーナスの身体は宙へと持ち上げられ、ゆっくりと肉の蔦の脈動と共に下水の川へと引き摺りこまれて行った。
「マーキュリー、早くみんなの――」
 ズブズブと肉と下水に沈み込んでいくヴィーナスの姿。そして水面から顔を覗かせる巨大な肉の穴。下水に潜む大型の妖魔は、セーラーヴィーナスを拘束するや、水面スレスレに浮上し、大口を開けて飲み込んでいった。
「そんな……こんなことって……」
 呆然と立ち尽くすマーキュリーの目の前には、肉の塊だけが残っていた。そして、肉の塊は、まるでマーキュリーを誘うかのように、下水の川を遡って奥へ奥へと消えていった。




「マ、マーキュリー……」
 その呻き声の中から、確かに聞き覚えのある声が混じっていた。
「逃げ、て……」
「ヴィーナス!?」
 その声を頼りに、マーキュリーはドーム状の空間を、奥へ奥へと歩いて行く。
「ヴィーナス! 今行くわ!」
「キキキキキ」
 そこへ、数多の人影が立ちはだかった。それはヌラリと流れるような動きで、徐々にマーキュリーを取り囲んでいく。
「妖魔ッ」
 仲間を助ける前に、一気に勝負を決める。マーキュリーは即座に臨戦態勢を整えると、取り囲む人影の一角を突き崩す。
「マーキュリー! アクアラプソディー!」
 高圧水流が無数の妖魔を薙ぎ倒す。水流の閃光に映し出された敵の姿は、透明な体組織を持った、人間のような妖魔だった。
「まさか……」
 予感。それも極めて悪いもの。この妖魔達の正体を想像したまーキュリーの背中に冷たいものが走る。恐らくは――
(人間を妖魔へ変えている……)