カエルの歌が聴こえる


 

「きゃっ!」
 敵地での油断は命取りだった。背中に何かが張り付いた。
「なに!? えっ!?」
 背中に手を回し、懸命にその物体を取り払おうとするが、張り付いたそれは容易に取れるものではなかった。それどころか、皮膚を吸引されたかと思うと、そこへ入り込もうとする。
「ひっ! き、気持ち悪いっ!」
 だが、さらに悲劇が待ち受けていた。身動きが取れなくなった獲物に、それらは次々と襲い掛かってきたのだ。それら――巨大なオタマジャクシがである。
「やめっ、いやぁ!」
 脚へ飛び付き、這い上がってくる。背中に張り付いたオタマジャクシを放置し、今度は這い上がってくる無数のオタマジャクシを懸命に取り払う。
「このっ、やめなさいってば!」
 ぬちゃり、べちゃりと取り払われたオタマジャクシが地面へと放り落とされ、ピクピクと蠢いたかと思うと、諦めずに再度襲い掛かってくる。
 そこは大量に産み落とされたオタマジャクシが潜んでいたのだった。まんまと足を踏み入れたヴィーナスにとっては、おぞましい池。
「ゲコォ」
 カエル妖魔達は離れた場所から、オタマジャクシに翻弄されるヴィーナスを眺めていた。それはこの先どうなるのかという答えを知っているかのように。
「うっ……くぅ!」
 全身に群がるオタマジャクシに翻弄され、脚を振り回し、手を使って放り投げ、この場を逃れようとするヴィーナス。だが、既に周囲は夥しい数のオタマジャクシに埋め尽くされ、どこへ走っても結果は解かり切っていた。